山梨、静岡、神奈川の3県や国でつくる「富士山火山防災対策協議会」は29日、富士山の噴火に備えて2014年に策定した避難計画を全面的に改定した。3県で被害が見込まれる「避難対象エリア」の27市町村の住民79万2000人と滞在している人らが対象。火口から溶岩が流れ出る「溶岩流」が発生した場合、車の渋滞を防いで支援が必要な人を車で優先的に避難させるため、その他の住民が原則徒歩で避難することなどを明記した。関係市町村や社会福祉施設などには避難計画の策定を求める。
新たな避難計画は「富士山火山避難基本計画」で、29日にオンラインの会合で了承された。人が歩く程度の速度で拡大するとされる溶岩流や、高熱の岩石や破片が斜面を流れ下る火砕流などが想定される地域や時期を踏まえ、避難の基本的な考え方を示した。噴火が起こる前に観光客らに帰宅を促すことや、学校などから保護者に児童・生徒らを引き渡すことも盛った。
避難対象エリアのうち火口付近では、観光客は、気象庁が示す噴火警戒レベル(5段階)が火山活動が高まって警戒が必要な状態とされる「レベル3(入山規制)」となるまでに、その地域に入った際と同じ手段で帰宅する。高齢者や障害者ら「要支援者」を含む住民は、レベル3となった場合に車で避難する。
火砕流や噴石の危険がある地域では、レベル3までに観光客は帰宅する。要支援者を含む住民は、地震活動が活発化するなど噴火の可能性が高まったとみられる状態の「レベル4(高齢者等避難)」となったら車で避難する。
溶岩流が3時間以内に到達する地域では、要支援者はレベル4で車を使って避難するが、その他の住民は噴火後に歩いて避難する。それぞれが避難を始める時期や手段をずらし、渋滞の発生を防ぐ。
大規模な降灰が生じる場合は屋内退避を原則とした。事前に避難先を設定して避難するのは「現実的でない」とした。火口の位置や風向きで影響を受ける範囲が変わる上、灰で視界が遮られ、車が動けなくなる危険性もあるためだ。
避難対象エリア内にある保育園や幼稚園、小中学校などは、噴火警戒レベルが3に引き上げられた時点で休校・休園とし、子供を保護者に引き渡す。引き渡し前に噴火した場合などは、集団で避難してから引き渡すことを検討する。病院や入院・入所型の施設などには、要支援者の利用状況を踏まえ、避難計画の策定や避難訓練の実施を求める。
富士山噴火を巡っては、首都圏にも降灰の影響があるとの試算が政府の中央防災会議の作業部会で20年3月に公表された。今回の避難計画は、2センチ以上の降灰が東京都や千葉、埼玉県などにも及ぶとする前提に立ったが、首都圏における降灰の影響や対策には、直接的に言及しなかった。
富士山火山防災対策協議会が14~15年に策定した避難計画は、爆発を伴う噴火が続いたとされる宝永噴火(1707年)を踏まえ、少しでも早く、遠方に避難することを想定していた。今回は、さらに複数の火口から大量の溶岩が流れ出たとされる貞観噴火(864~866年)も念頭に検討。22年3月に公表した「中間報告」は、溶岩流から避難する場合、車よりも徒歩の方が早く避難できるケースが多いとして原則徒歩の方向性を打ち出した。
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